父親が食べることができないから自分も食べないと言うひと

「彼女」の存在に気がついたのは、義父が入院して1週間たった時だった。
4人部屋の廊下側のベッド。
お向かいにその女の人のお父さんが入院し治療を受けていた。

父親のかたわらでナニを思う?

2月の寒い朝。
夫の定期検診前に義父の病室をのぞいてみた。

「お義父さん、おはよう」

義父は悲しそうに言う。
「なんでこんなことになったんだろう?」

ナニも答えることができない。

「熱は?」と、話をそらす。
義父は話を合わせてくれた。

わたしが病室に着いたのが8時半少し前。
「彼女」はそれ以前に来ていた。

40代半ばだろうか。
静かなひとで、父親の寝顔をじっとみていた。

夫は検診が終わった後に抗がん剤の治療がある。

「これから診察してもらうね。
終わるのが18時くらいだと思うから。
今日はお義父さんのところに何度も顔出すからね」

義父にそう伝え30分程で病室を出た。

病院の待合室はいつもながら混んでいた。
急患が入ったらしく、今日も順番がなかなか回ってこない。
夫と苦笑いしながら、固い椅子に座って待つ。

病院だから元気な人はそうそういない。
みんな辛そうに、静かに受付番号が呼ばれるのを待っている。
きっと文句をいう元気もないのだろう。

「じっと、待つしかないね」

大丈夫?なんだか顔色わるいみたい

診察を待っている間、義父の様子を見に行った。
寝ていた。

11時すぎ。
まだ順番が来ない。
12時回りそうだ。

「そろそろお昼ご飯だから、お義父さん様子見てくるね」
そう言い、義父の病室に向かった。

ちょうど配膳の最中。
昼食を取りに行った。
戻ってきたとき、気がついた。

「彼女」は青い顔をしてパイプ椅子に座っている。
よけいなお世話だと思いながら声をかけてみた。

「あのぉ 大丈夫ですか?」
「彼女」はハッとしたように、
ちいさな声でつぶやいた。

「すみません。
ワタシ… トイレに行きたくて…」

「どうぞ、どうぞ。
行ってきてください
ココにいるから大丈夫ですよ」

「すみません」
と言いながら立ち上がった顔はまっさおだった。

しばらくしてトイレから戻って来ても、顔色が悪い。
そろそろ夫のところに行く時間だ。

心配ながらも、義父に声をかけて夫のところに戻った。

おだんご、こんなにおいしかったのね

その日以来「彼女」はわたしを見ると
「トイレに行って来てもいいですか?」と聞く。

「どうぞ」
と答えると大急ぎで用を済ませて帰ってくる。
見る度に頬がこけていくような気がする。

その日は義父のリクエストで「だんご」買ってきた。
少ししか食べられないけど、食べたいと聞くと嬉しかった。
半分食べて「ありがとう」と言った。

「そのひと」にいかがですか?と差し出すと、
震える手でだんごを受け取った。

「食欲がなくて…
もう何日も食べていなかったんです。
おだんご、こんなにおいしかったのね」

そう言いながら涙が止まらない。

「父親が苦しんでいるのに、
父親が食べていないのに、
わたし 食べることに罪悪感があって…」

そう、罪悪感でいっぱいになるひとはいる。

わたしだって義父をひとりにさせている罪悪感がある。
週に3日しか会いにこれない。

「明日来るね」というと、手を振ってくれる。
「来週来るね」というと、涙を浮かべる。

看護しているひとの中には何らかの罪悪感を持っているひとは多い。
ときおり、チクリと胸が痛くなる。

「彼女」に言ってみた。

「あなたが元気じゃないと、
お父さん連れて帰る時たいへんよ」

翌週病室をのぞいたら「彼女」はおにぎりを食べていた。

「わたし、食べてもいいんですよね。
お父さん家に連れて帰るんだから」

涙を浮かべながらそう言った。

ずっと罪悪感を持ち続けながら。
父親が食べられないのだから、自分も食べられないというひと。

もう少し早く話が出来たらよかったなぁ…
わたしも誰にも言えず苦しかったことがたくさんありました。

もしあなたも、誰にも言えないことがあったとしたら
ひとりで悩むのはもうやめにしませんか?

誰も孤立させたくない、
そう考えています。

このサイトはわたしにとって、「懺悔からのリスタート」です。

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